キャッシュレス決済の概念
我が国では、銀行振込・口座振替に始まり、クレジットカード・電子マネー・デビットカード・資金移動サービスなど、実に様々なキャッシュレス決済の手段が存在します。
これらの利用は拡大傾向にありますが、キャッシュレス決済比率は約20%と、諸外国比では見劣りする状況にあります。
この背景としては
- 加盟店のコスト負担(端末導入費用や決済手数料など)
- 互換性の無いサービスの乱立といった、キャッシュレス決済手段自体の課題
- 治安の良さやATM網の充実などによって、国民の現金志向が強い
といった要因があげられます。
現金支払いに対する高い信認は、基本的には歓迎すべきことですが、一方でキャッシュレス化には大きなメリットが期待できます。
その代表的なものが社会全体でのコスト削減です。例えば金融機関における現金管理やATM網運営コスト、さらには小売・外食産業における現金取扱に係る人件費などで、年間数兆円規模のコストが発生しているとの試算もあります。
今後労働力不足が深刻化する中、これらを削減することによって、生産性を高めていくことが不可欠となります。このほかにもキャッシュレス決済化は、インバウンド消費のさらなる拡大、決済データを活用した付加価値の高い新たなサービスの創出といった可能性も秘めており、取り組みを強化することが求められております。
QRコード決済の動向
多様なキャッシュレス決済手段の中で、特に注目を集めているのがQRコード決済サービスです。
例えば、印刷されたQRコードを利用者が読み取る方式の場合には、店舗側の初期コストが不要であるなど、導入のハードルが低いことがその理由としてあげられます。
こうした背景から、足元では新たなQRコード決済サービスが続々と登場しております。
これらは提供する事業者によって、ITプラットフォーマー系・携帯キャリア系・銀行系・独立系の4つに大別されます。
機能面では、ユーザー間送金や銀行口座への出金が若干異なるものの、決済(代金支払)は共通であるなど、あまり大きな差異は認められません。
また支払方法も、基本的は現金・預金・クレジットカードのいずれかを活用したものとなっております。
このように、機能面などで大きな差別化が図られていないことから、特にITプラットフォーマー系や携帯キャリア系を中心に、利用者に対する大規模なポイント還元や加盟店手数料の無償化といったキャンペーンを通じた囲い込みを積極化させていっています。
一方で、加盟店開拓などに関しては連携の動きもみられており(LINEPay・メルペイ・d払い・楽天ペイ・auPAYなど)もともと同一業界内での連携を図っている銀行系(J-CoinPay)なども合わせて、今後はいくつかのグループに集約されていくことが予想されます。
キャッシュレス決済の促進に向けた取り組み
政府は、大阪・関西万博の開催される2025年に向けて、キャッシュレス決済比率を40%程度に倍増する方針を打ち出しています。
その起爆剤として期待されているのが、本来2019年10月から2020年6月にかけて実施される「キャッシュレス・消費者還元事業」です。
これは消費税率引き上げに伴う、需要平準化対策とキャッシュレス決済の促進を目的として
- キャッシュレス決済を行った消費者へのポイント還元(原則5%)
- 決済端末の無償導入(中小・小規模事業者)
- 加盟店手数料の補助(1/3相当)
といった支援を実施するものです。
また2018年7月には、オールジャパンで取り組みを進めていく観点から、業界横断的かつ産学官が連携した「キャッシュレス推進協議会」が設立され、QRコードの規格統一などに向けた取り組みが進められています。
2019年3月には統一規格「JPQR」の技術仕様ガイドラインが公表されており、2019年8月からは総務省・経済産業省主催の普及事業が4県(岩手県・長野県・和歌山県・福岡県)で開始されております。
キャッシュレス決済の目指す姿
足元では、キャッシュレス決済化に向けた取り組みが加速していますが、これまで互換性の無いサービスの乱立が大きな障壁となってきたことを踏まえると、今後は「競争」と「協働」を通じた利用者利便の極大化という視点が重要となります。
例えば、個別のサービスやアプリについては、使い勝手や他事業との連携など、利用者利便の向上のために競争すべき領域と言えます。
一方で、決済インフラ(加盟店開拓など)やインターフェース(QRコードの規格など)を始めとするプラットフォームについては、シンプル・シームレス・柔軟性・拡張性といった要素に配慮しつつ、協働領域と位置付けることが適当であると思われます。
また、不正利用時の補償対応など、利用者保護についても協働で対応し、キャッシュレス決済全体の安心感を高めることも必要となります。
キャッシュレス化は、利用者のみならず、中小企業に対しても生産性の向上や新たなビジネス機会の創出など、大きなメリットをもたらします。
今後も官民一体となった取り組みが期待されます。
一方で、引き続き現金決済が必要とされる場面も一定程度見込まれるほか、高齢者を中心に、デジタルリテラシーが相対的に低い層も存在します。
キャッシュレス決済化の推進にあたっては、こうした点も踏まえつつ、「競争」と「協働」、さらには「現金決済」と「キャッシュレス決済」のバランスを確保してくことが必要となります。